カラダで身につけること

文化を徹底して、カラダで身につけること。それが逃げるひとつの道である

これは堀井 憲一郎さんの著作「若者殺しの時代」(講談社現代新書)、その結びに近いところにある言葉です。

僕は、目上の人にも、年下の方にも、ほぼストレートにものを言いますから「この野郎、憎たらしいな」と思っている方も、きっとたくさんいらっしゃるのだとおもいます。
それでも、何とか仕事をいただいていけて食べていけているのは、何らか、僕に「芸」があるからなんだと思います。逆に言えば、その「何らかの芸」が通用しなくなれば、あっさりと僕は、世の中からスポイルされてしまうと、思っています。

…確か、志ん生師匠が、三平師匠の真打ち披露の口上の中で「芸人は、籠の鳥といっしょ。お客様に餌を貰って生きている。高座に上がっているときは、なんだか一段高いところに偉そうにしているけれど、つまらないから、もうお前はいらないといわれれば、それまでのもの」というようなことをおっしゃっていらっしゃったと思うのですが、自分を顧みて、僕もつくづく、そういう存在なんだろうなと思っています。

ただ、その危うさと引き換えに、恐らくは、この世の中で、最も気楽で自由に生きていられるフリーランスな生き方を続けることができている。幸いなことに奥さんも、つきあって、芸人の女房をやってくれていますから、これは、本当に幸せなことだと思います。

堀井さんのおっしゃている「文化を徹底して、カラダで身につけること」で「逃げる」は、たぶん、僕の持つ「芸人感覚」と異色同源のことでしょう。AI(人工知能)が発達した時代だからこそ、頭だけではなく手を動かせることが求められます。かつて田中角栄氏は「コンピュータ付きのブルドーザー」と評されましたが、現場とデスクの両方に精通していることが求められてくるのでしょう。

そして、現場で求められるのは理屈ではなく皮膚感覚です。

堀井さんは「外へ逃げると捕まるなら、だったら思い切って逆に逃げるのってのはどうだろう。内側に逃げるのだ」と言い、その「内側に逃げる」を「日本古来の文化を身につける、ということなんだけど」とおっしゃっています。
都々逸、古武道、落語、刀鍛冶、酒杜氏、左官…美容師やラーメン職人なんかでもいいし、探せばもっとあるだろうともおっしゃっています。
つまり、「見るからに日本文化」でも「下地には日本文化」でも、ようは、誰にでも備わっているはずの「資産」であるところの「日本文化」に拠って、それを生業にするとよいのではとおっしゃっているわけです。

(こういってしまうとパティシエさんやブランジェリーさんはダメなの、と思われるかもしれませんが、豈図らんや、こうした「外来」のものこそ「日本文化」を生かせる…近頃、和製のワインやシングル・モルト、チーズなどが欧州で大評判であることの所以です)

こういうことをいうと、たいていの人は「本」を読み始めてしまいます。
でも、そうではなくて、理屈で覚える前に、例えば片っ端から「お寺」を観るとか、そういう方向から始めた方が良いと思います。繰り返しになりますが、現場では皮膚感覚です。

江戸文化というと、勉強のできる人ほど、年表みたいな本をあたり、260年間の大枠を掴んでから、ディティールへという考え方をなさいますが、そんなのどうでもいいことです(どうでもいいていうのは、少し乱暴か…)。そんなことより、今、下町へ出かけていって、例えば、風鈴の職人さんのところにお邪魔して、悪いけれど、1日観ててもいいかと頼んでみてください(これが結構難しいですけれど…たぶん、主観的な想いや情熱を元手に頼んでも無理です。でもその職人さんにシンパシーが得られれば、すっと受け入れてもらえます)。

座学は、そういうのが一通り終わってからで充分だと思います。
皮膚感覚を磨き、一端のものにするまでにはかなりの時間がかかりますしね。

堀井さんの著作「若者殺しの時代」。賛否両論の書籍で、特に「逃げる」が解せないといわれていましたが、発刊から10年ほどの時間が経過して「逃げる」の意味が鮮明になってきたようにも思います。新古書店でも、そう難儀なく見つかると思いますので、一読してみてください。

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