この本の出来不出来については諸説あります。僕にも判断はできません。
いずれにせよ。出版社がそうさせたのか、執筆者ご本人の意思なのか、この書籍以外に橘さんによって、この事件を殊更に掘り下げようとした形跡は公には見受けられないように思います。
でも、それほどに難しい事件だったのだと思います。
彼らにとって、どこまでが虚構で、どこまでが現実だったのか…
リアルに自分が体験している人生、その現状に納得できずに、自分を加飾し、加飾するために費やされる時間はなかったことにする。世間に評価される作法は全うしたいし、自分らしくもありたい。そのうち、リアルとフィクションの境界に自分では処理できない矛盾をはらんで現実が襲いくる…
リアルがすっぽりと抜け落ちているのに、それを承知で、そのリアルを生きていこうとする…犯人にも、そして被害者にも、そういう恐ろしさがあり違和感があります。
たぶん「これまで」からの類推をまったく拒んでいるような事件なんでしょう。ノンフィクション作家の河合香織さんも雑誌G2(講談社:現在休刊中)で、少しルポルタージュを試みて(vol.6 2010年)おられますが、やはり未消化のうちに筆を置かれています。
僕らの人生はすべて現実なのでしょうか。疑えばきりがないようにも思いますし、逆に気にしなければすべてが現実のようでもあります。
事件が起こったのは2006年の12月でした。その後、こうした違和感にもあまり驚かなくなった自分がいます。
セレブ・モンスター―夫バラバラ殺人犯・三橋歌織の事件に見る、反省しない犯罪者
橘 由歩 著 河出書房新社 2011年