引用

日常の脆さを

2006年に出版された本です。確かに8年前の本ですが、紀伊国屋さん他では、すでに「注文不可」。
少し寂しい気がします。

著者の岩瀬さん、通信社の記者さんだった方とはいえ、よくも、こうコンパクトに、大正から昭和初期にかけての「生活者」のリアルをまとめられたものだと、その手腕に、まず感心させられます(僕ごときがこういうのもたいへん僭越なんですが)。当時のホワイトカラーがどうだったのか、そうでない人たちがどんな暮らしを送っていたのか、軍人さんはと、当時の雑誌に投稿された読者の声、専門家の見方、統計データなどを組み合わせ、まさに、立体的に、あの時代の生活者のリアル。置かれていた状況を活写しておられます。

そして、その生活者たちがつくりだしていた「あの時代」が、なぜ開戦というかたちに結実しなければならなかったのか…そうしたことに持論を展開しつつ、最終的に、そうしたことを、現在という時代に生きる僕らは、どう受け止めるべきかを示唆してくださっているような本です。

そして、そういう意味においては、副題にある『戦前日本の「平和」な生活』は、ほとんど皮肉な感じです。本文の最後の小見出しは「気づいたときには遅かった」とあります。

313PN5JB3CL._SX230_満州事変以降、生活の苦しいブルーカラー(つまり当時の日本の圧倒的多数)や就職に苦しむ学生は、「大陸雄飛」や「満州国」に突破口を見つけたような気分になり、軍部のやり放題も国家主義も積極的に受け入れていった。しかし、すでに会社に入っていた「恵まれた」ホワイトカラーはますますおとなしくなっていったように見える。彼らは最後まで何も言わず、戦争に暗黙の支持を与えたのだ。

彼らもやがては招集され、シベリアの収容所やフィリピンの山中で「こんなはずじゃなかった」と思ったことだろう。

この文章に続けて、岩瀬さんは、昭和15年の「主婦之友」9月号に掲載されていたという、少々見栄っ張りなホワイトカラーのご夫婦の優雅な?買い物事情を描いた絵物語を紹介しつつ

この物語には、すでに数年間続いていた日中戦争の影も、このあと1年で日米全面戦争に突入する予兆もまったくない。平和そのものだ。しかし、この数年後に夫は兵隊に引っ張られ、妻子は空襲で焼け死んだかもしれない。

と続けられています。

僕も、市井から眺めている限り、時代の変化とはそういうものなんだろうと思っています。まぁ、あと数年後に僕らが兵隊に引っ張られることはないとしても、例えば金融危機から恐慌になって、まるで敗戦時のわが国のような状態になる…そういうふうに考えれば、案外、リアリティはあると。

著者は最後にこうおっしゃっています。

やはり戦争はいきなりやってくる。黙っているとやってくる。

戦争かどうかは別にしても、とにかく、世間の常識とか、これまでの経験とか、そういうことに安居しない方がよさそうです。

月給百円 サラリーマン―戦前日本の「平和」な生活  岩瀬 彰 著/講談社 刊(講談社現代新書)

新古書店ではしばしば見かける本です。アマゾンの「出品者から」でもまだ廉価です。

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